研究会紹介

手賀沼水生生物研究会の紹介

    発足年度 2007年11月1日
    会の目的
    手賀沼及びその周辺地域に生息する水生生物及びその育成・生息地保全することを目的とする。
    1. 会の事業
  1.  水生生物及びその生育・生息地の調査研究
  2.  水生生物及びその生育・生息地の保全に関する普及啓発活動
  3.  水生生物及びその生育・生息地の保全に関する技術開発
  4.  全各号に付帯又は関連する事業

手賀沼水生生物研究会は、手賀沼とその周辺地域で魚や鳥の調査をしたり、親子自然観察会を開くなど、楽しみながら手賀沼の水辺の生きものの保全・復元にかかわり、少しでも「生きものの豊かな手賀沼」を実現するお手伝いをしたい、と考えている団体です。

活動の中心は3つあります。

  • 生きもの調査
  • 親子自然観察会
  • 希少生物保全活動です。

手賀沼の環境と生きものの現状を調べ、調べたことをもとに「望ましい手賀沼の姿」を私たちなりに描き、地域住人のみなさんと共有すること。 そして、必要に応じ、いろいろな機関と協力して、「望ましい手賀沼の姿」を実現する試みを、できる範囲で行なっていくこと。 ただし、楽しみながら、味わいながら、知ることを喜びながら!これが手賀沼水生生物研究会のめざすところであり、そのような会でありたいと考えています。「夢は大きく」という感じですが、多くの皆さまに会の活動を知っていただき、多くのものを共有していただければ、と考えています。

手賀沼水生生物研究会は、こんな集まりです。

きっかけはブラックバス駆除でした ……>・))) ><<  

手賀沼水生生物研究会は、手賀沼で魚や鳥の調査をしたり、親子自然観察会を開くなど、楽しみながら手賀沼の水辺の生きものの保全・復元にかかわり、少しでも「生きものの豊かな手賀沼」
を実現するお手伝いをしたい、と考えている団体です。  会として発足したのは2007年11月ですが、きっかけとなったのはその半年前、2007年4月半ば~6月半ばにかけて、手賀沼で行なった
外来魚ブラックバスの駆除でした。  手賀沼は利根川の水を引き込む「北千葉導水事業」によって、27年間も続いた「水質汚濁日本ナンバーワン」の地位を2002年に返上しました。
つまり、水の透明度は年々高くなっていると考えられるわけですが、たまたま2006年秋に手賀沼の用水路で「親子自然観察会」を開催した代表の鈴木盛智が、大津川にかかるヒドリ橋の上から
ブラックバスの群れを確認しました。

このとき同時に、モツゴやスジエビなどのいわゆる「雑魚」が、手賀沼に多数いることを知った鈴木は、「水が澄みエサが豊富なら、バスは急激に増えるに違いない」と心配し、
NPO柏市民活動センターに相談したのです。これに応え、柏市民活動センターでは、手賀沼沿いの柏市や我孫子市で環境保全活動に取り組んでいるみなさんに声をかけてくれましたが、
そのとき集まったみなさんから支持をいただき、07年度のブラックバス駆除活動がスタートしたのです。

大津川河口で人工産卵床点検作業

伊豆沼式人工産卵床の組み立て作業

手賀沼漁協組合長深山氏の挨拶

生きもの豊かな手賀沼に驚嘆!  ……>・))) ><<

これは人工的な構造物を水中に沈めてバスの産卵をうながす、「伊豆沼式人工産卵床」を使っての駆除活動でした。残念ながら、ブラックバスの産卵は1回しか確認できませんでしたが、

伊豆沼式人工産卵床にオオクチバスが産卵

週2回の産卵確認に沼に通い詰めた参加者は、一様にこの時期の手賀沼の「命の豊かさ」に驚きました。 バスに限らず、春は水辺に棲む多くの生きものたちの産卵期に当たります。
週2回の見回りは大変でしたが、毎回見られる生き物が変わり、多くの生きものの卵や稚魚、幼生、ヒナなどとも出会えます。 それは、「あんな汚い水に生きものなんかいるの?」
といまだに言われていまうことの多い手賀沼が、じつは生きものを沸き立つほどたくさん養う、豊饒の湖であることを確認する作業でもありました。
バス駆除活動終了後、活動の中心は調査にうつりました。

手賀沼親水広場前での生き物調査

07年のバス駆除のとき、湖底の調査が不十分だったことに不安を感じた鈴木が、2ヶ月に一度程度の「湖底&生きもの調査」を提案し、これが実行されたためです。
すると、この調査でも、すでにごく少数になったと考えられていた大型の二枚貝(ドブガイ類)を多数確認できたり、いまだ生体が再発見されていない大型のカラスガイ
の貝殻を見つけたり、発見と感激がたくさんありました。

手賀沼で生きたドブガイ類やカラスガイ貝殻を発見

手賀沼ではめったに見られないタナゴも発見

命の豊かさを感じる5月下旬 写真はスジエビ

人工産卵床に群体を作るマルサヤワムシ

人工産卵床/モンドリを利用する生き物・場所別グラフ

そして、こうした活動を通じ、参加者は手賀沼における定期的な生きもの調査と、その結果を広く知らせることの必要性を、強く感じるようになったのです。

活動の中心は生きもの調査と親子自然観察会です ……>・))) ><<

そんなことから、「魚を中心とした生きものの調査や保全に取り組む団体を、手賀沼につくっては?」との提案をいただき、2007年11月、「手賀沼水生生物研究会」が発足しました。
会員の多くは、柏市民活動センターの呼びかけで集まり、2ヶ月間のバス駆除にもたゆまずご参加くださったみなさんです。その過程で、美しい手賀沼を愛する市民の連合会(通称・美手連)や、
手賀沼の環境保全活動に取り組むほかの団体にも、多大な協力をいただきました。 できたばかりの会ですが、行いたい活動は大きく4つあります。
湖底と生き物調査、自然観察会、外来生物の調査や駆除、そして、学習会です。

大津川河口用水路での親子自然観察会

手賀沼親水広場前で生き物調査
写真提供:左村 義弘氏

第1回手賀沼調査 沼の中でも砂地が広がり歩けるところもある

手賀沼の環境と生きものの現状をコツコツ調べ、調べたことをもとに「望ましい手賀沼の姿」を私たちなりに描き、そのいずれについても地域住人のみなさんにお知らせし、また、共有すること。
そして、必要に応じ、いろいろな機関と協力して、「望ましい手賀沼の姿」を実現していくためにできることを、できる範囲で行なっていくこと。ただし、楽しみながら、味わいながら、知ること
を喜びながら! ――というのが、手賀沼水生生物研究会のめざすところであり、そのような会でありたいと考えています。「夢は大きく」という感じの目標ですが、多くの皆さまに会の活動を知って
いただき、活動の過程で得たものを共有していただければ、と考えています。

堂本暁子・千葉県知事と面談しました。

    「生物多様性基本法が成立し、種のデータ集めはこれから国の課題、世界の課題です。ぜひ協力してください」

千葉県庁に堂本知事を表敬訪問

2008年6月6日(金)、堂本暁子・千葉県知事との面談のため、千葉県庁を訪ねました。今回の面談は、全国ブラックバス防除市民ネットワーク事務局長・小林光さんのご高配により実現したもの
で、手賀沼水生生物研究会が発足したご挨拶をかね、手賀沼の水辺の生きものの保全と、その調査データの蓄積についてお願いをするのが、大きな目的でした。そのため、美しい手賀沼を愛する市民の連合会(美手連)会長の田口迪雄さん、我孫子野鳥を守る会会長&谷津田ミュージアムの会会長の木村稔さん、小林光さん(前出)にもご同行いただき、手賀沼水生生物研究会代表の鈴木盛智、副代表の松本勝英、事務局の半沢裕子が、知事室にうかがいました。知事室では、小林さんより全員の紹介が行われ、田口さんより、「美手連にこういう会が参加してくれたので、今後ともよろしくお願いしたい」
とのご挨拶をいただき、また、木村さんからも、「谷津田ミュージアムの会でも、谷津田に多自然型水路を復元した。しかし、魚道が途切れているので、魚が上がらない。昨年、宮城県より専門家に調
査に来てもらい、今年度は予算もついたので、魚道をつくり、手賀沼との有機的なつながりを復活させたい」とのお話をいただきました。

伊豆沼周辺で水田魚道を見学

鈴木、松本、半沢からは、当会のバス駆除活動、および定例調査について、知事にお話ししましたが、知事は強い関心をもって、たいへん熱心に耳を傾けてくださり、「どのくらいのバス駆除効果があったのか」、「どのような方法でバス駆除をおこなっているのか」などのご質問もいただきました。20分の面談時間はあっというまに過ぎてしまいましたが、最後に知事より、「この4月、千葉県に生物多様性センターが発足しました。
本年度は千葉県中央博物館など、県内部で収集した情報の整理に活動が限定されますが、公的機関に集められる情報は、ほんの少しにすぎません。
(知事の最新著作『温暖化と生物多様性』の共編者である東大名誉教授の)岩槻邦夫さんも、『生きものの調査などを行っている市民はいわば、ノン・プロフェッショナル・ナチュラリスト。へたな専門家より、よほど専門性が高い』とおっしゃっていますが、そうした皆さんのご協力により、たくさんのデータを集めることができるのだと思います。

5月28日、国の法律(「生物多様性基本法」)がやっと成立しました。これにより、国の生物多様性センターでも情報収集がはじまります。それは、世界で50億種以上の生きものデータを集積する国際的な
計画に連動するものです。県による情報収集は、いわばその末端にあたります。手賀沼水生生物研究会では、週2回の活動を行なっているとのことですが、そうした活動によりいろいろな種が確認でき、手賀沼の生きものについて、だんだんわかってくるといいと思います。どうぞ今後ともご協力ください」とのお話をいただきました。そして、県の担当課の皆さんにご紹介をいただき、面談を終了しました。手賀水研で行っている調査にも大きな目当てができたような気がした、知事のお話でした。■

伊豆沼式人工産卵床の回収作業
写真提供:鈴木 健弘氏

生物多様性基本法も成立しました。……>・))) ><<

折しも、千葉県では2008年3月に「生物多様性ちば県戦略」を策定し、「生物多様性センター」も4月にオープンしたとのこと。

ここは行政、市民にかかわらず、生きもの情報を集める拠点となり、それは日本の生きもの情報、ひいては世界の生きもの情報の集積につながっていくのだそうです。また、今年5月末には、「生物多様性基本法」も成立しました。生きものの保全や復元の意味は、今後ますます大きくなってくることと考えられます。
けれども、そうした保全や復元も、そもそもは「今、そこに生きている生き物」をひとつひとつ知るところからはじまります。そうした地道で楽しい活動に長くゆっくりと、できれば効果的に、かかわっていければ――と、私たちは強く願っています。

伊豆沼式人工産卵床の回収作業
写真提供:鈴木 健弘氏

■ 文責:半沢 裕子

手賀沼水生生物研究会紹介 2022年現在手水研の活動は主に4つ。

「手賀沼親子自然観察会」、
「手賀沼の調査活動」、
「勉強会」、
「希少種保全活動・四つ池保全活動」です。

4番目の「希少種保全活動・四つ池保全活動」についてお話しします。きっかけとなったのは、2003年に日本トンボ学会と我孫子野鳥を守る会がNEC我孫子事業場内にある四つ池で行った調査でした。
この時絶滅危惧種である希少トンボのオオモノサシトンボが見つかっていましたが、保全のためには環境がどうなっているか調べる必要があり、2007年、調査に参加されていた我孫子野鳥を守る会の元会長で、当会発足のきっかけとなったバス駆除活動にも参加されていた元会長さんに依頼され、四つ池環境調査に参加しました。このとき、オオモノサシトンボとともに外来魚が多数生息していることが分かり、リスク管理の観点から、当会がこれらの駆除活動を開始したのが始まりです。振り返ればもう15年前になります。


オオモノサシトンボのペア

四つ池保全活動では、結果が目に見える保全活動ができることから、研究者の方々といろいろな方法でアプローチを試みることになります。アプローチの方法をいくつかご紹介すると、まず駆除釣りです。
次にトラップを仕掛け定期的にチェックをする。人工産卵床や産卵防止ネットという方法や小型定置網も試みました。またトンボの住みやすい環境づくりにも腐心しました。
2012年には、四つ池最上流のD池で2週間連続の池干しをおこないました。その際、のちにゼニタナゴ野生復帰事業を展開するきっかけになる二枚貝500体の生息を偶然にも確認しました。


2012年12月2日 完全に水を抜いた四つ池D池

しかし翌年、台風26号によって四つ池が冠水し、池干し後の池に再び外来魚が入り込んでしまう事態が発生。活動は振り出しにもどります。

転機が訪れたのは、2015年、7年前です。当会会員でもある土浦自然を守る会の方より、50匹の利根川水系由来のゼニタナゴをもらい受けたことです。この個体群は、元観音崎自然博物館(神奈川県)館長の故・石鍋壽寛氏が関東のゼニタナゴの絶滅を危惧して1989年に霞ヶ浦美浦の湖岸で捕獲し、琵琶湖博物館で継代飼育されていたものです。
2011年の千葉レッドデータブックには、ゼニタナゴについて以下のように記載されています。
「【県内の状況】タナゴ同様、利根川水系を中心に分布していたと推定されるが、近年急激に減少してきた。減少原因はタナゴとほぼ同様である。今回の見直しでの調査でも利根川低地での生息が確認で
きず、絶滅あるいはそれに近い状況になったと考えられ、2006年改訂版に続き、消息不明・絶滅 (X) に変更した。」そして千葉県の2019年の改訂版でも、ゼニタナゴはX 消息不明・絶滅生物になっています。


ゼニタナゴ♂

故・石鍋氏が保護したゼニタナゴは、霞ヶ浦市民協会、土浦の自然を守る会を経て当会へ譲渡されました。これらのゼニタナゴは遺伝的に関東集団として確認済みです。2015年、その貴重な子孫たちの飼育を我孫子事業場内にある人工池で開始し、翌年春 ゼニタナゴ稚魚が見つかり繁殖が確認できました。

しかし地域絶滅した生き物を、野生復帰させるには、実は大変なハードルがいくつもありました。
そのいくつかをご紹介すると

① まずゼニタナゴの飼育です。人工池には、千葉県中央博物館からリスク分散のため移譲された手賀沼絶滅種ガシャモクや四つ池に生えていたエビモを入れ、植物食のゼニタナゴの餌としました。これらの水草は刈り取る必要があるくらい繁茂し、ゼニタナゴの餌の心配はなくなりました。しかしタナゴの産卵母貝となる二枚貝が、エサであるプランクトンの珪藻類の不足のため、春になる前に餓死してしまうことが判明。人工池でのゼニタナゴ繁殖は停滞が続きました。
この難題の解決には数年かかりましたが、その方法はちょっとした企業秘密です。知りたい方は、ぜひ当会に加入して活動にご協力ください。

② 2019年1月に満を持してふたたび上流2つの池で池干しを実施。しかし肉食魚がいなくなったことにより、池の環境自体を壊す アメリカザリガニが激増。人力によるトラップでの捕獲では、増加を食い止めることはできませんでした。しかし各地で保全団体がザリガニ問題に頭を抱える中、解決のための一つの試みである利根川の天然ウナギの導入では、手賀沼漁協組合員のウナギ捕獲のご協力を得て、うまくいきつつあります。


2021.7.25 利根川でのウナギ漁に参加

③ 2020年は新型コロナによる活動自粛のため、2019年秋の大雨による四つ池冠水の状況が把握できない状態でした。2021年からNEC側の計らいもあり、活動ができるようになりましたが、池干しした
最上流の池で外来生物が大繁殖していることが判明。また振出しに逆戻りです。


これらの困難な状況を解決するいくつもの試みの中で一番効果的だったのは、実は駆除釣りでした。釣り名人の揃った東京勤労者つり団体連合会(東京労釣連)や法政大学のボランティアの皆さんのご協力、そして当会会員のたゆみない尽力により、外来魚の駆除が進み、今年2022年10月2日には星野順一郎我孫子市長と我孫子市民をお招きして、人工池のゼニタナゴをD池に放流する「利根川水系ゼニタナゴの野生復帰」のイベントを開催することができました。


2022.10.2 星野順一郎我孫子市長をお招きしての利根川水系ゼニタナゴの野生復帰イベント 

四つ池 D池

外来魚は一度入れられたら、もう手の施しようがなく、共存して利用するしかないと某有名釣りキャスターが発信されていますが、私は別の意見です。環境保全に関心のある釣り人の自発的協力さえあば、外来魚の影響を最小限に抑えることは可能です。四つ池におけるゼニタナゴ野生復帰活動は、その実証の一つになったと思います。

NECとの協働によるこの活動は多くの皆様のご協力により

2022年度自然保護大賞の選考委員特別賞
https://www.nacsj.or.jp/award/result.phpを受賞しました。


また、2022年度の千葉県文化の日功労賞の環境功労章を日本電気株式会社(NEC)とともに受賞 しました。


2022.11.3 千葉県功労者表彰で環境功労を受賞

https://www.facebook.com/necjapan/photos/a.524447527577990/5954205754602113/

また希少種の保全されている四つ池は、次期生物多様性国家戦略のカギとなる自然共生サイトの候補地(30 by 30) https://policies.env.go.jp/nature/biodiversity/30by30alliance/ にも選定されました。

■文責:鈴木 盛智